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- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 国立科学研究センター(CNRS)
- 元記事公開日:
- 2025/06/17
- 抄訳記事公開日:
- 2025/07/10
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CNRS、科学者の社会的発信に対応する手引きを初めて整備
Un guide pour accompagner l’expression publique des scientifiques du CNRS
- 本文:
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(2025年6月17日付、国立科学研究センター(CNRS)の標記記事の概要は、以下のとおり)
CNRSは6月17日、メディア発信を希望する科学者を支援するため、公的発言に関する手引きを発行した。この文書は、CNRS倫理委員会(Comets)の勧告および2024年3月に実施された職員調査の結果にもとづいている。
コロナ禍から5年を経た現在でも、科学的に誤った情報が拡散してしまった当時の記憶は新しい。メディアの情報が錯綜する中で、適切に検証された事実にもとづく科学的発言の正確性を見極めることは困難であった。
◇学問の自由への強い支持
Cometsは2023年に公表した見解の中で、メディアやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の発展により研究者が公に姿を現す機会が著しく増加したと指摘しつつ、「研究者の公人としての関与と、研究活動に求められる基準とは本質的に矛盾しない」との認識を示した。すなわち、科学者には研究内容について公的に発言する権利はあるが義務ではないとされた。一方で、メディアへの露出に伴うリスクから科学者を保護し、パンデミック時のような混乱を避けるため、Cometsの委員長は「実践的な発言ガイドの共同構築」を呼びかけた。
このような手引きの必要性は、2024年春に実施されたCNRS内部調査で明確に示された。調査には、全科学職員約2万8,000人のうち5分の1が参加し、80%が「科学者の公的発信に関してCNRSの方針を明確することは重要」と答えた。さらに83%がその発言が社会に積極的な影響を及ぼすと考えていた。一方、半数は実際には公に発信していないと回答しており、表現の自由への支持と実際の露出との間に乖離があることが明らかになった。また、発言に際しての制度的支援を強く求める声も多く、15%はSNS上での批判やネット上の嫌がらせを懸念していた。
◇実践的なツール
こうした状況を受けて、CNRSは今後の改訂も見据えた初の公的発言に関する手引きを作成・公表した。この手引きは、広報部、科学評議会、Comets、倫理担当者、法務部、人事部が1年半かけて共同で策定したものであり、公的発言を希望する科学者に向けた具体的かつ教育的な支援ツールとなっている。憲章とは異なり、CNRSの手引きは職員の発言を統制するものではなく、「科学者の表現の自由、研究者に課せられる厳格さ、機関のイメージの保全、そして公共的討論の質との間で、適切なバランスを取るための実用的手段」として設計されている。
手引きでは、新聞やテレビなどの報道機関での発言方法や、SNS上でのリスクから自身を守る手段についての助言が示されている。
さらに、科学者の表現に関する法的枠組みも概説されており、フランスおよび欧州法が保証する高い表現の自由のもとでも、一定の法的・倫理的義務が伴うことが明記されている。とりわけ、Cometsの見解を踏まえながら、発言に際しては自らの立場や根拠とする事実を明示する必要性が強調されている。この意味で、科学者は研究における倫理と誠実さを、公的発言においても同様に貫くことが求められる。
[DW編集局]