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- 国・地域名:
- フランス
- 元記事の言語:
- フランス語
- 公開機関:
- 国立科学研究センター(CNRS)
- 元記事公開日:
- 2025/06/18
- 抄訳記事公開日:
- 2025/07/15
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フランス型AIによる欧州「第三の道」構想と技術主権確立に向けた政策的展開
L'IA à la française : entre ambitions souveraines et course mondiale
- 本文:
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(2025年6月18日付、国立科学研究センター(CNRS)の標記記事の概要は、以下のとおり)
米国と中国の巨大企業が支配する人工知能(AI)の分野で、フランスと欧州は「第三の道」の構築を目指している。
CNRSによって設立された「科学のためのAI、AIのための科学(AISSAI)」センターでは、より高度なアプローチの創出にとどまらず、AIと他の科学分野との関係を根本から再考することにより、技術面を超えた科学的・倫理的・社会的課題を包括するフランス独自のビジョンを示している。
◇三つの未知数を抱える方程式
フランスのAI研究は現在、「主権と国際協調の両立」「学術的卓越性の産業化」「技術開発競争と倫理的責任の均衡」という三重の課題に直面している。この課題に取り組むために、CNRS、CEA(原子力・代替エネルギー庁)、INRIA(国立情報科学・自動化研究所)などの国立研究機関は、欧州モデルに則った「信頼されるAI」の構築を目指し、技術の中心に人と知識を据えるという独自の価値観に基づく「フランス型AI」の在り方を模索している。
本年2月に開催されたAIアクションサミットは、米中主導の技術競争が加速する中、「信頼できるAI」という欧州独自の「第三の道」の方向性を示す重要な契機となった。このサミットで、マクロン大統領はAI国家加速化戦略(SNIA)の新フェーズを発表し、今後数年間で1,090億ユーロ規模の民間投資を見込む。これに平行して、欧州委員会は「AI大陸行動計画」に取り組んでおり、その一貫として「科学におけるAI戦略」も検討されている。
これら一連の取り組みの背後には、「卓越した科学知を、技術的・経済的優位性へと転化する」という、欧州およびフランスが長年抱える課題がある。
◇優秀人材の確保と定着の困難
この知的資産を最大限に活用するため、フランスは2018年以降、AI国家戦略を柱として総額25億ユーロ超を投資してきた。しかし、それが優秀な人材の定着につながるかは未知数である。
こうした状況に対し、3億6,000万ユーロ規模の9つの「AIクラスター」の構築が、優秀人材の育成と「フランス版MIT」の創設を通じて、「第三の道」を形成する中核として期待されている。
さらに、欧州委員会は本年5月、「Choose Europe for Science」計画を発表し、計5億ユーロを研究者支援に充当する方針を示した。フランスも独自に「Choose France for Science」構想を打ち出し、1億ユーロを投資する。
◇リスクに対処するための協調的アプローチ
フランス型AIは、単に主権やイノベーションの観点にとどまらず、「誤用」と「制御喪失」という二重のリスクに対処するため、官民の協働が不可欠である。
◇欧州における第三の道の探究
米中による覇権競争が激化する中、欧州は「感情操作」や「顔認識」「社会的スコアリング」などの手法を禁止する規範を策定し、「第三の道」として、節度あるAI、説明可能なAI、そしてデータ主権を柱とする独自モデルを構築しつつある。これを支える法制度として、2024年6月に発効した欧州AI法は、「AIの開発と使用が基本的権利および欧州的価値に適合すること」を目的としている。
◇危機の中のチャンス
現在、米国の公的研究資金制度が混乱する中、欧州にとっては優秀な人材を呼び込む千載一遇の機会ともなり得る。この現実を踏まえ、フランス政府は国外で研究活動が困難な科学者を支援するために「Choose France for Science」構想を立ち上げ、CNRSもこれに呼応して「#ChooseCNRS」イニシアチブを展開している。
[DW編集局]