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- 国・地域名:
- ドイツ
- 元記事の言語:
- ドイツ語
- 公開機関:
- 国家科学アカデミー(Leopoldina)
- 元記事公開日:
- 2025/06/17
- 抄訳記事公開日:
- 2025/07/08
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老化の生物学的理解に基づく加齢性疾患対策の転換を提言するLeopoldinaの新報告
- 本文:
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(2025年6月17日付、国家科学アカデミー(Leopoldina)の標記発表の概要は以下のとおり)
老化は、がん、認知症、循環器疾患の最大のリスク因子である。しかし、老化の生物学的メカニズムの理解が進んだことで、老化に起因する疾患リスクを低減し、健康年齢を延ばすという観点からの老化抑制(ジェロプロテクション)の可能性が現実味を帯びてきた。本日公表されたLeopoldinaのディスカッションペーパーの著者らは、加齢性疾患に関する研究と医療の在り方について、従来の枠組みを超えたパラダイムシフトを求めている。すなわち、個別疾患への対応に先立ち、老化そのものに焦点を当て、医療の現場において老化の生物学的過程をより深く探究すべきだとしている。
加齢とともに、人体は細胞プロセスを制御・維持する能力を徐々に喪失し、細胞修復の誤作動が増加してがんや循環器疾患を引き起こす。老化のメカニズムを解明することは、新たな治療法の開発に大きな可能性をもたらす。こうした極めて複雑な老化過程を理解するために、著者らはドイツにおいて学際的な研究コンソーシアムを創設することを提案している。老化生物学とシステムバイオロジーにおける専門知を統合し、モデル生物から得た研究データをヒトのバイオサンプルや患者データと接続・比較する枠組みの構築が構想されている。
老化の生物学的過程をより深く理解し、環境要因の影響を評価し、老化抑制のための措置を開発するうえで、ビッグデータの収集・連結・解析は不可欠である。DNA、RNA、タンパク質などに関する複合的な生物学的データ(マルチオミクス・データ)は、老化のバイオマーカーの同定に資する。これにより、しばしば実年齢と乖離する生物学的年齢を把握し、老化抑制を目的とする治療や薬剤の有効性を検証できる。著者らは、英国のバイオバンクを参考に、こうしたデータを体系的に収集・共有する国家的なバイオデータバンクの創設を提言している。
医療においても新たなアプローチが期待される。すでに高血圧や2型糖尿病の治療薬の中には、老化抑制の効果が認められたものもある。大量データの解析により、他の既存薬にも同様の可能性を見いだすことができる。また、老化の逆転と組織機能の回復を目指す手法として、細胞の初期化(リプログラミング)に大きな期待が寄せられている。
このディスカッションペーパーは、2024年11月にLeopoldinaの本部で開催された老年医学に関する国際ワークショップの成果に基づき作成された。
[DW編集局]