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- 国・地域名:
- 米国
- 元記事の言語:
- 英語
- 公開機関:
- 国防高等研究計画局(DARPA)
- 元記事公開日:
- 2015/04/27
- 抄訳記事公開日:
- 2015/06/12
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アメリカ国防高等研究計画局(DARPA):スキルラーニング(技能習得)に資する記憶機能の加速を目指す
- 本文:
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アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)の2015年4月27日付けの発表記事では、技能習得のために記憶機能を活性化させることを目的とした研究について紹介している。以下にその概要をまとめる。
DARPAの新プログラムでは、個人がもつ特定の一時的事象に関する記憶や習得した技能に関する記憶機能を向上する目的で、記憶の形成と呼び起こしにおける神経の「再現」能力(”replay”)の役割を研究する。能動的記憶力再現の回復“Restoring Active Memory Replay(RAM Replay)”と称される24箇月にわたるこの基礎研究プログラムは、研究者がどの脳構成部分が記憶力形成と呼び起こしに関与しているかを特定するのみならず、それらがどの程度関与しているかを解明するための斬新で厳格な計算法(computational method)を開発する。現実世界への妥当性を確保するため、これらの評価は研究室等における記憶力の評価でよく使われる従来型のコンピューターを使用した行動パラダイムでは無く国防総省に関連した業務・課題の実行能力を通して検証される。新しい知識と、記憶力評価と形成のためのパラダイムは記憶障害に見舞われた負傷した戦士の社会復帰と回復の改善につながる。
たとえば、軍人は記憶を呼び起こして詳細に説明・報告を行い、以前の経験に基づいて得られた知識を活用した行動が求められ、近年益々その責任が増している。如何に上手くこれら過去の実体験を呼び起こせるかにより、戦闘やその他の困難に直面した場合のこれら個人の対応に雲泥の差を生じる。しかし、保存された記憶は不変ではなく、時間が経過するにつれて微妙な力に影響される。特定の体験とその後の報告又はその記憶を利用するまでの時間枠は数時間から数か月、或いは数年に及ぶ事がある。この間、生理的、環境的及び行動学的な要因が、個人の体験の描写が記憶として統合されるプロセスに影響し得る。それは記憶へのアクセスのしやすさと正確性、そして個人が「学んだ教訓」を後日活用する能力に影響を及ぼしかねない。
ヒトの記憶は脳内の神経の結合が形成または強化される過程における生体内作用の結果生まれる。記憶の形成及び呼び戻しには認知力、注意能力と感情を司る脳神経ネットワークを含む複数のメカニズムが関与している。統合として知られる過程を通して体験の描写は長期記憶に保存され、それ以前に蓄積された古い知識並びに記憶と合体する。
記憶の形成、統合及び呼び出しのメカニズムの研究の結果、脳内の記憶の描写は覚醒時と睡眠時の両方において、通常は無意識の内に、初期の記号化後も、繰り返し「再活動化」する事が示唆されている。そして、記憶の再活動化は神経再現(neural replay)の過程にリンクされ、この神経再現の過程において、神経活動パターンが記憶の初期の記号化で発生していた活動パターンを反映させる。
再現プロセスが発生する頻度や長さといった再現過程への介入の度合いが、後の記憶の呼び起こしや習得した技能に対する行動学的な取り組みの精度に影響を与えうる。
また更に、複数のヒトを対象とした研究において、睡眠中の特定の段階で知覚シグナルを提示する或いは経頭蓋を刺激する方法により、事後の記憶呼び起こしの調節作用を調べている。種々の生理的又は環境的要因が、再現による記憶回路強化の度合とその精確さに影響を及ぼす可能性を示唆する証拠が増えている。これらの研究結果は、記憶の強度と忠実性を改善するための脳独自の再現システムを活用し、根拠に基いた方法.が開発できる可能性を示唆している。
現代社会において非在来型の記憶支援用具は氾濫しているがこれらの技術の多くは記憶に影響する多側面の一部に焦点を当てているに過ぎない。長期的にはRAM Replayは記憶力強化メカニズムの核心部分を特定し、日々増大する情報過密社会における記憶の信頼性への挑戦に適用できる、汎用性のある解決法を見出すと期待され、その結果一般教育、職業再訓練から戦場での認識力向上まで広範な領域にわたって民間人にも軍人にも同様に利益をもたらしうる。
[DW編集局+JSTワシントン事務所]